セントレア空港のラウンジで波佐谷が僕に質問をした。
「ヒロさんのことですけれど、青木さんはちよっと言い過ぎではないですか」
突然の質問に僕は驚いてしまった。
「彼は今どき珍しいくらい好青年です。彼がいなかったら僕は一年間フィリピンにいることができませんでした。信じられないんですよね。昔の彼の姿を。講演会でのヒロさんの話はもう少し抑えたほうが良いと思います」
僕は2時間しか寝ていないせいで頭がぼーっとしていたこともあったけれど、なんて答えていいのかわからなかった。
なんども、どうなんですかと波佐谷から聞かれたが答えようがなかった。
すべて本当だと話しているにもかかわらず、それを信じることができないのだから、僕から何を言っても無駄でしょう。
マニラで一泊して、ヒロさんの住む街に向かった。
朝から晩までサマークラスで勉強していたヒロさん。
疲れがまだ抜けていないということで疲れた表情をしていた。
ヒロさんに波佐谷の話をした。
終始ニコニコしていたヒロさんだったけれど、僕が話し終えても無言のままだった。
ヒロさんは両腕を頭に廻し、ラウンジの天井を見つめていた。
沈黙を破ったのはヒロさんだ。
「家を売り払い、どこかに引っ越してしまった俺の家族。青木さんでさえ、住所も電話番号を知らない。何かあったらメールもしくは非通知で連絡をするという現実。」
「この現実だけで十分じゃないですか」
「俺は丁寧に今までのことを書きましたけど、みんな嘘に思われているんでしょ」
「かわいそうなのは青木さんじゃないですか、俺に嘘を書かせたと思われているんだろうな」
しばらくして、突然笑い出したヒロさん。
「俺の人生漫画みてえだ」
「おかしいよね」
顔を見たら泣いている。
今までのことを思い返しているんだろう。
僕も少し涙ぐんでいた。
いろいろあったな。
本当に色々あったな。
「そうですね。」
涙をぬぐいながら、マティニーを一気に飲み干して突然その場に立ち上がったヒロさん。
「そんなの関係ねえ。そんなの関係ねえ。もう一ついくぜえ、そんなの関係ねえんだよ !!」
「魔閃光 !!」
最後は魔閃光で決めやがった !!
ロビーのお客から拍手をもらった僕らは一礼をして腰を下ろした。
少し酔が廻っていた僕たち。
フィリピンの夜は更けていく。
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