賛美歌が終わった。
牧師先生が真っ先に、講壇にいる俺にあいさつに来てくれた。
「良かった、ヒロさん良かったよ!!」
「はあ、どうも」
俺はどう答えてよいのかわからなかったんだ。
だって、一度も人から褒められた経験がなかったから。
青木さんも、人から褒められたら、こういいなさいと言ってくれていなかったんだ。
そうしているうちに、他の信徒の人たちも来てくださった。
どの人も、「あなた、辛いところを通されたんだね」
「頑張ってきたんだね」
励ましてくださった。
そのとき、俺の視界の中に一人の女性が入った。
年齢は70前後ぐらい、小児まひのような感じで、体を前後左右に大きく揺らしながら、こちらに向かって必死に歩いてきた。
「あなたは頑張りました!!」言葉もろれつが回っていなかった。
そう言うと、何かを僕のポケットに無理やつこっんだ。
慌てて、出してみると千円札だった。
「○○さん、あなた生活保護をもらっているんだから、無理しなくていいのよ、お祈りだけで良いの」違う信徒が言った。
「わたしは、この人を応援したいダケ!!」
帰りの車中運転手の青木さんと反省会をおこなった。
僕は、さっきもらった千円札を取り出して眺めた。
くちゃくちゃの千円札だけれど、見ていたら涙が急に溢れてしまった。
いじめられたときも泣いた事がないのに、知らないおばあさんから、もらった千円札で泣いてしまった。
泣いた。
鼻水と涙がごっちゃまぜになった。
僕はこの千円札はありがたくて使えないと思った。
勉強が大変でくじけそうになったとき、恋人に振られて死んでしまいたいと思ったとき。
折に触れては、千円札を眺めていた。
今は、もうあの千円札は手元にはない。
千円札には十二分に助けてもらった。
今度は僕が誰かに千円札をあげる番だと思っている。
下記バーナーのクリックにご協力をお願いします。
日本ブログ村に参加しています。