大学卒業後、就職に失敗した彼はそれでもアルバイトを頑張っていました。
しかし、アルバイト生活では将来に希望が持てません。
「アルバイトから正社員にもなれる。」とアルバイト先の上司から言われてはいたのですが、新卒採用の年下の人たちが毎年職場に配置されるのを見て、かすかな希望は遠のいてしまったそうです。
同年代は正社員になって、車を購入したり、結婚をしたりという話が彼の耳に届くにつれて、次第に自信を無くしていった彼です。
アルバイト先が閉店したのを機にひきこもってしまいました。
それ以来、外に出ることができなくなったのです。
知っている誰かと会うのが怖かったのです。
自分だけがこんな惨めな生活を送っている。
そして、その生活から抜け出す術もきっかけもわからないでいる。
気づけば20年近くひきこもっていました。
本人の承諾なしにこれ以上詳しくお伝えできないことが残念です。
そんな彼と私たちのスタッフが会って、話ができるまでに1年かかってしまいました。
それも、彼が受け入れてくれたわけではないのです。
最初で最後になるかもしれないと思って、私たちは約束もないまま玄関の呼び鈴を鳴らしたのです。
出てきたご家族に事情をお話しして、息子さんである彼に声をかけてもらうことにしました。
もちろんそれ以前に、私たちの団体に最初にアクセスしてこられたご親戚の方を通じて、ご家族とも入念にその日に備えて準備はしていたのです。
10年近く息子さんと顔を合わせていないので、声をかけるのが怖かったとご家族からは事前に言われていました。
それに、「声をかけたとしても、部屋から出て来ることはないだろう。」とも言われていました。
しかし、手紙にも反応しなかった彼に対して、訪問して直接お会いするしか残された方法はありませんでした。
2階の息子さんの部屋に向かって、階下から声をかけるご家族。
丁寧に優しく話しかけられたのを鮮明に今でも覚えています。
少しして、部屋の扉が開く音がしました。
ご家族は慌てて違う部屋に移動されました。
暴力があったわけではないのです。
息子さんと顔を合わせて、どんな反応を示せばよいのかもわからなくなっていたのです。
初めてお会いする彼は、髪の毛が肩まで伸びていました。
顔の表情はやつれています。
「なんですか、あなたたちは?」
それが彼の第一声でした。
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