「ゴオー」という地の底から鳴り響いてくるような音。
「ドカーン」という音とともに、屋根が剥がれる音がした。
隣の家の屋根が飛んだんだ。
この家の屋根が飛ぶのも時間の問題だ。
時間の経過とともに、吹き荒ぶ風の音は強さを増していく。
僕が不安だったのは、海水が強い風の力で陸まで押し寄せてくること。
水際からわずか300メートルしか離れていない僕の家に海水が浸水してくるのか?
しかし、海の地形から考えて、波が干渉しあい、ここまで水がくることはないと考えた。
残る不安は、建築途中の2階部分。
コンクリート作りといいながら、細い鉄筋が数本入れてあるだけのお粗末な作り。
そして、数年に渡り放置されていることから、塩分を含んだ雨水がコンクリートを侵食していることはわかっていた。
スタッフからも、2階部分の崩落に備えて、荷物を全部すみの方に置いてくださいと連絡があった。
台風の勢力がピークに達した頃、「ドーン」という大きな音とともに天井が崩壊した。
2階のコンクリートが倒れて屋根を直撃したのだ。
穴が空いた屋根から、黒々とした夜空が雨と一緒に視界に入ってきた。
幸いコンクリートの破片は僕には当たらなかった。
風と雨が時間と共に収まった頃、僕は眠りについた。
目が覚めたのは朝7時。
穴が空いた天井から光が僕の顔にさした。
急いで外に出た僕。
近所はしっかりとした作りだったので、被害は少なかった。
表通りに出たら、多くの家が崩壊していた。
三匹の子豚の話を思い出した。
藁と木でできた家は吹き飛ばされたという話。
まさに、シャルガオの現実はそれだった。
他者のことを考えている余裕など僕にはなかった。
半壊した家をぼーっと眺めていた僕。
力が抜けて、その場にしゃがみこんでしまった。
何もかも失った。
お金はもうない。
半壊した家の修繕なんかもう無理だ。
今までの努力はなんだったんだ。
婚約している彼女のことを思った。
携帯を取り出したけれど、圏外の表示。
試しにかけてみたけれど「プープープー」の音だけが虚しく鳴っている。
3日後、電波がつながる。
彼女になんと言えば良いのか?
わかっていることは、今の僕には彼女に対する責任が取れないこと。
僕の方から別れを切り出さなくてはいけない。
素直に現状を伝えて、謝るしかない。
そして日本に帰ろう。
日本で何をする?
嫌な思い出しかない日本で・・・。
彼女に電話をした。
彼女は泣いてくれた。
「生きていてくれて、それで十分だ。」と言ってくれた。
「何もかも失ってしまった。」と僕。
「また、一緒に0から始めれば良いんだよ。諦めたらそれでゲームセットなんだよ。私がいるから大丈夫。明日から、始めようね。」
30歳近く歳が離れている彼女が、僕の背中を押した。
僕はそれ以上何も彼女に言えなかった。
ただ、今まで経験したことがないくらいに泣いた。
母親の葬儀の時にも泣かなかったのに!!
台風は僕の最後の希望だと思っていた夢を持ち去った。
しかし、新しい希望が、家以上の希望が僕に残されていることを教えてくれた。
彼女。
愛しい彼女。
そして僕が長年拘っていた後悔や負の感情。
台風はそれらも一緒に持ち去ってくれた。
僕は大丈夫。
彼女がいてくれるから、大丈夫。
今、こんな状況でも僕は幸せなのです。
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