「新品の物を使うことができないんですよ。」
そういうと、彼はベッドの下から箱を取り出して中身を見せてくれました。
そこには、買ったばかりの通学用バッグ、シューズ、蚊取り線香、かゆみ止めの薬、下着などが未使用のまま入れられていました。
「使えないんです。自分はこの世から消えなきゃいけない人間なんです。そんな人間には、お金をかけてはいけないんですよ。」
「僕は、英語学校で一生懸命勉強していますよ。でも1人になると、死んでしまいたいという気持ちがとても強くなるんです。そんな気持ちになると、何も使ってはいけないと思ってしまうんです。」
日本の彼の家を訪問した時に、首回りが伸びきったクタクタの服を着ていた彼です。
髪の毛は伸び放題でした。
そんな彼に普通の青年のようになって欲しくて、下着や服、バッグも購入して、「使いなさい。」と手渡したのです。
全て、女性スタッフが同行して彼と相談して、購入したものです。
フィリピンに来て、3ヶ月目の彼。
まだまだ、自分を責めているのです。
「自分の為に新しいものが使えないなら、僕の為に使ってくれないかな。」
「・・・・・・」
「君がこざっぱりした服装にしていると僕も、担当スタッフの◯◯さんもとても嬉しいからね。僕たちの為に、新しいものを使ってくださいよ。」
そういうと、私は値札などを取って、彼に手渡しました。
私は彼の気持ちがわかります。
私の母親が「今からデパートに行くけれど、隆は何か欲しいものがあるかい。」と僕によく聞いてくれたのです。
しかし、「何もいらない。」が僕のいつもの返事でした。
働きもせず、学ぶこともしていない私は、この社会のゴミだ。
そう固く信じていた私です。
そのことを彼に伝えたら、顔を上げ私を見て言いました。
「僕のこの気持ち、わかってもらえるんですね。」
「ああ、わかるとも、わかるよ。」
「でも大丈夫。自分に自信ができたら、自分を責めることはしなくなるからね。」
「その為に、ここセブ市で、英語を勉強しているんだから。」
「僕は大丈夫ですか。」彼がもう一度、私に聞きました。
「僕は30年ひきこもったけれど、大丈夫だった。だから、君も大丈夫なんだよ。」
「希望はまだあるから。」
彼が笑顔を取り戻せるまで頑張ります。
決して見捨てたりはしません。
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