50代男さんの調子が良くありません。
ため息ばかりついています。
学校から、最近あまり勉強に身が入っていないとの連絡が入りました。
急遽面談です。
「やっぱり手遅れなんです。一生懸命勉強していますよ。
それは認めてくださいよ。」
「でも若い頃と違って中々覚えられないんですよ。でも時間はどんどん過ぎていきます。」
「もう無理だな。本当に無理だ。」
そう言うと泣いてしまいました。
「どうしたいですか?」
「もう死ぬしかないでしょ。こんな人間誰が必要としてくれますか?」
「この社会に、いてはいけない人間なんです。」
そう言うとまた、涙を流していました。
「あなたの30年間と僕の30年間は違い過ぎますよ。高卒と東大大学院では違いすぎる。」
「無理だ。無理なんだな。」
「死んでしまいたい。この世から存在を消し去りたい。」
「でも死ぬのは怖い。」
50代男さんの体が震えています。
「こんな僕でも、まだ大丈夫だと確認できる場所が世界中のどこかにあると思って生きてきたんだけどな。」
涙と鼻水で顔が大変なことになっています。
差し出したテイッシュを何枚も何枚もとって鼻をかむ50代男さん。
「ちよっとトイレに行くので席を外します。」
そう言って、青木に連絡です。
「どれだけ時間がかかっても良いので、話すことがなくなるまで話を聞いてください。」
「そして、明日青木が話を聞きに部屋まで行きますと言ってください。」と言って電話が切れました。
青木からの伝言を伝えた後で「青木さんと話しても、もうどうすることもできませんよ。本当に今までありがとうございました。こんなどうしようもない人間に大切な時間を割いていただいてすみませんでした。」
青木が後で私に言いました。
「まだ大丈夫ですよ。何も心配することはありません。ちゃんとあなたは、回復への道を歩んでいるのですから。」という言葉を聞きたいんですよ。
30年間1000人近くの人たちの支援をしてきた経験が、そう語らせるのでしょうか。
青木は何も動じていません。
私はただ彼の力になれないことを申し訳なく思うばかりです。
青木は信じています。
50代男さんが仕事を持って社会に戻り、結婚をして家庭を持つことまで想像しているのです。
「その根拠は何ですか?」
「根拠?そのように強く感じるからね。」
「6年の支援になるのかな。見続けてきたことからの根拠かな。」
再び彼が回復に向けて走り出すことができますようにと祈る私です。
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