彼は中学からみんなについていけなくなり、そのまま長期間ひきこもってしまいました。
昨年、ご両親が私たちの講演会「大人のひきこもり」を聞きに来られました。
「この支援なら、息子は再び社会に戻ることができるようになる。」
そう思われたご両親は、私たちとの面談を行いました。
今までの発達歴や成育歴、性格、得意なことや苦手なこと、ひきこもり開始時期など家族からできる限りの情報を得るように努めました。
彼は中学から学校に行っていなかったのですが、ご両親がなんとか説得して、高卒認定試験は合格させていました。そのことは支援を行う上ではとても助かりました。
ご両親も常識を持ち合わせておられる方と判断し、支援をおひきうけすることにしました。
その時のカルテを見ますと、「機会を失っただけで潜在能力は大きい。ゆっくり彼のペースに合わせて機会を与えていくこと」とありました。
訪問するまで半年間かかりました。
さらに、支援につながるまで3ヶ月間かかりました。
初めてお会いした時に少し驚きました。
髪の毛がお尻の辺りまで伸び、髭は熊のようになっていたのです。
その様子は仙人のようでした。
私たちは、ご本人とお会いした時にまず目をみます。
Aさんの目にはまだ力が残っていると感じました。
しかし会話がないのです。
長い期間家族ともほとんど話をしなかったAさん。
スタッフはなんとか彼の気持ちをあげようといろいろと試みます。
しかしすでに中高年になっている彼に笑えという方がおかしいでしょう。
なんの希望が彼に残されているのですか?
笑うことなんかできるはずはありません。
なんとか力を振り絞って、サポートセンターまで足を運んでくれているのです。
そんな彼に今必要なのは「希望を見せる」ことです。
「まだ大丈夫だ。」
「人並みの幸せをつかむことができるんだ。」
「社会に必要とされる人になれるんだ。」
そんな希望を見てもらうためにフィリピンにお連れしました。
飛行機の中でも、ひとことも喋らないAさんでした。
そのAさんに変化が訪れたのはダイビングをした後でした。
ダイビング後にみんなで食事をしました。
その席でAさんが突然一方的に話始めたのです。
「海は綺麗でした。
ダイビングしてみた世界は別世界でした。
本当にどこからか乙姫様が舞い降りてくるのではないかと思いました。』
突然のことに私は驚いてしまいました。
まさか話すとは。
「イソギンチャクに手をかざしました。
そしたら驚いてすぐにしぼむんですよ。
そのままじっとしていたら今度はガブリと掴まれたんです。」
笑顔で話すAさんです。
「そう、そうなんだ。人生は楽しいよね。」
そう答えるのが精一杯な私です。
こらえられない涙をぬぐうためにトイレに立ちました。
本当にありがたい。
今、彼は小さいけれど希望を見出したのです。
俊介さんも同席していました。
彼はグッドタイミングで自分の大学行きの話を私に振ったのです。
「あなたは海外の大学にいくのですか?すごいですね」
「何もすごくない。すごいのはこの人です。」
と僕を指さしました。
「みんなこの人がお膳立てしてくれるんですよ。僕は信じてついていくだけ。そしたらその先に幸せが待っているんでしょぅね。きっとね。」
「君もよかったら、日本を飛び出してここに住むといいよ。日本では僕はいらない人だから。ここでは困った人のお役に立てるんだ。それだけで生きていける理由になっているからね。」
俊介さんが雄弁に話しているのを一番驚いたのはこの私です。
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