掃除はとても大切だ。お客様の為に
4時少し前に青木さんが待ち合わせ場所の大学についた。
校門近くで待機していた俺は、青木さんを見つけるや否や駆け寄り、荷物を持った。
重い。
先生方に手渡すものが入っているにしてはとても重い。
エレベーターを利用しようと思ったが節約の為に切られていた。
「どうしましょうか」と俺は青木さんに聞いた。
「階段でいくよ」
そう言うと青木さんは重たい方のスーツケースを抱えて階段を登って行った。
登って行くという表現が合っている急勾配な俺の大学の階段。
まるで、登山だ。
「スーツケースを階段にあてない。持ち上げて運びなさい」
「50過ぎの親父が30キロのスーツケースを運んでいるのに、どうして君は5キロのスーツケースで俺より大変そうにしているの。」
後で考えたら、ほんとにそうだと思った。
職員室がある3階に到着した。
ドアに何か貼ってある。
「ガーン!!」
会議中!!
「青木さん、こりゃだめだ。今から空港に直行して帰ってもらうしかないです」
「高い飛行機チケットを払って半日かけてしかもホテル代もかかったんだ。だから、会わずに帰る訳にはいかないよ」
その時、一人の生徒が会議中のビラを見た後、ドアをノックして中に入ろうとしたら、責任者の方が、すごい形相で、会議中となっているでしょ!!と怒鳴った。
「だめだ、青木さんここはひとまず退散してから、体制を整えよう」
青木さんは、先生方の名前を口に出して、もう一度確認して、ドアをノックした。
開かれたドアから出て来たのはあそこも縮むほどの形相をした責任者だった。
「会議中、ごめんなさい。青木と申します。ヒロの父親役です。どうしてもこれを△先生、◇先生、こちらを◎先生と◯先生にお渡し願えますか。」
「お忙しい所、ごめんなさい。また来月伺わさせてもらいます」
「後1時間で終わりますが、待っていただけませんか」
「飛行機の時間がせまっております。改めて来月伺わさせてもらいます」
「お気をつけて」
完璧だった。
そこには戦い終えた孤高の戦士の姿があった。
良かった!!
「あーあ、良かったな。終わったら腹へりました」
能天気な俺がいた。
「先生は会議の事は言ってなかったの?」
青木さんの、言っている意味が分からなかった。
「先生達に今日のスケジュールを聞いておいてと言ったよね」
「先生たちは4時から大丈夫です。と言ったのに急に会議が入ったのかな」
「・・・・・」
「どうして黙っているの」
「メールで、何時から会ってもらえるのか、今日お会いする4名の先生にそれぞれ聞いてくださいとメールをしたよね。」
「その後、ヒロさんに電話して、俺が言った事を復唱したよね。」
「黙っていたら、わからないよ」
「すみません、やっていませんでした」
「いつも4時には先生方暇にしていたから」
「でも、今日みたいに突然会議が入る事もあるから、必ず聞かないといけないね」
無性に自分に腹が立った。
俺は履いている靴の右側を飛ばす。反対側も飛ばす。
ベンチにどっかと腰掛けて、頭の髪の毛をむしり始める。
そして壁に頭を叩き付ける。
気分が悪くなり、少し横たわる。
突然起きだして、走り去る。
誰もいない所を見つけて、そこでひとりしゃがみ込んで、ぶつぶつ言う。
そもそも、◯◯たちが悪いんだ。
俺は悪くないんだ。
あいつらのせいでこうなったんだ。
あいつらにも同じ思いをさせなければ!!
少したって、スタッフが迎えにくる。
「ヒロさん、帰るよ」
俺はスタッフのいる場所と反対方向に全速力で走り去る。
深夜になって、空腹に負けた俺は、部屋に帰る。
自分の部屋に入ろうとした瞬間台所に俺の夕食が置いてある事に気づく。
「冷めているから、レンジであたためて食べなさい」
その書き置きを見て、俺は泣くんだ。
もっと素直にならなきゃいけないって。
「大事な事は、覚える事。今度から先生たちにその都度聞きます」
素直に言えた。
「じゃあ、俺もおなかへったから、食べに行こうか、ヒロさん」
俺は昔のおれとは違うんだ。
「発達障害は成長しないわけではないんだ」
ただ、成長の仕方が他の人たちと違うだけなんだ。
失敗の連続の日々。
青木さんがわざわざ俺の為に時間をさいて来てくれた。
おれの為だ。
その事をもっと感謝したい。
もっともっと失敗してそこから学んで行きたい。
俺は幸い、社会に出るのを遅くしてもらった。
今、社会に出ても、まったく通用しない事がわかっていたから。
だから、大学に行き、猶予をもらったんだ。
学べる時間は今しかない。
勉強よりももっと大切な事。
生きて行く上でのルール。
もっと、もっと積極的にいろんな事にチャレンジして行きたいんだ。
失敗大歓迎!!
失敗という経験のみが俺をさらに強くするんだ。
ハッハッハ、無敵な男。
ヒロ様だ!!
参ったか!!!
青木さんを空港までお見送りした。
ずーっと気になっていた事を聞いた。
「青木さん、余ったチョコレートとか、どうするんですか。重い荷物になりますから、俺、処分しますよ」
「ヒロさんには関係ない」
そういい残して、出発ゲートに消えて行った青木さん。
背中には「怒」の漢字が浮かび上がってみえた。
ハッハッハ、調子に乗るなよバカヒロ!!
すんません。
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