2011年ダイビング免許を取るための講習会。俺21才。
隣室にいる50代男さんに話をしようと扉の前に立ったら、中から話し声が聞こえた。
「本当にありがたかったな。楽しかったな。」
「良い思い出ができたよ。感謝しないといけないな。」
「それで、ジ・エンド。もう夢は終わったんだからな。」
聞いてて辛くなったので思わず扉を開けた。
「あのう」と言う僕の声にかぶせるように「今から英会話教室の解約に行きますので失礼します。」と彼が言った。
ぼくは慌てて「不安が強いので、やり直すのがこわいのではないですか」と聞いた。
「怖いですよ。何もかもが怖い。知らないことばかりで、どれだけやれば良いのかさえわからない。先が見えない怖さ。あなたにはわかりますか?」と言って、玄関に移動した。
「長い間、ほとんうにありがとうございました。」
「他のスタッフのみなさんにもよろしくお伝えください。」と言うと、体の前で両手を合わせて、軽くお辞儀をされた。
そして彼は帰って行った。
すれ違いにスタバに行っていたスタッフが帰って来た。
「彼、なんて言っていたの?」とスタッフ。
「何から何まで怖いって。キリがないからもう諦めたって。」
「ヒロさんは何か話したの。」
「青木さんと打ち合わせをして、彼に話そうと部屋に行ったら、あちらから一方的に話されて、おしまいです。」
「今、玄関で出会ったので、少しお話ししましょうと言ったら、首を横に振って出て行ったわ。彼にコーヒー フラペチーノも渡すことができなかった。」
俺は手渡された、ホイップ多めの抹茶 クリーム フラペチーノを喉に流し込んだ。
「どうしようか?」
「ヒロさんはどう思うの」
俺にそんな質問をしてくれたのでとても嬉しかった。
「後で、彼の家に行きますか。それとも明日にしますか。」
「メールを今送っておきますか。それとも電話をかけますか。」
「どちらにしても、今は興奮はしているでしょうね。」
しばし考えていたスタッフが決断した。
しかし、スタッフがかけた電話には出ない。
30分後、1時間後、2時間後。
そして日にちは流れて2週間たった今。
彼が使っていた事務機器マシーンは埃が溜まりかけている。
5年間頑張って来た彼だが、ここまでなのか。
5年前と今では別人の様に変わった彼だけれど、それだげではダメなんだ。
30年という空白の時間を埋めるにはまだ足りないのだ。
きっとそうに違いない。
下記バーナーのクリックを2つ押してください。
ご協力をお願いします
日本ブログ村に参加しています。
1位でいると新しい人たちが訪問してくれます。
クリックをお願いします。