俺が現場にそわない会話をするもんだから、場がしらけちまったんだ。
なんか、いたたまれなくなって、「ちよっとぶらついてきます」って言うんで、ぶらぶらしていた。
今来た方向をぶつぶつ言いながら歩いていたら、向こうから何か光るものがこちらに向かって来るんだ。
その小さな光が、段々と大きくなってきた。
それは、青木さんの禿げた頭に反射する太陽光だった。
下手な冗談はやめろ?
いや、冗談じゃなくて、本当に光っていた。
俺は慌てて、みんながいるところに戻って報告した。
「青木さん、戻ってきたよ」
青木さんは、顔に傷をしていた。
支援物資が収納されている場所に暴徒が押し掛けてきたときに、殴られたり掴まれたりしたらしい。
アルコールで消毒した後「もう、こんなところにいたんじゃあ、命がいくつあったつてたりやしない」
「さあ、撤退しましょうよ」
「ヒロさん、黙っていなさい」
「また、ダメだしですか!!」
結局僕たちは、車に残っていた古着を小さな地域で配布する事にしたんだ。
正直、俺のテンションは最悪だよ。
助けにきてやったのに、なんなんだ、この扱いは。
ふざけるなよ。
俺は今にも爆発しそうだった。
程度の低いフィリピン人め。
「ヒロさん、行くよ」
古着を乗せたバンが発車寸前だった。
「はい、はい行きますよ。いきゃあいいんだろう」
30分ほど走ったら違う集落だった。
ここも台風の水害でひどい状況だった。
においがはんぱねえんだ。
もどしそうだったよ。
俺はスタッフに言われるままに、古着を村の集会場に運んだんだ。
ここはさっきの場所と違って、みんな整然と並んでいた。
「ヒロさん、あなたが一人一人に古着を手渡して差し上げてね」
「はい、はい、手渡して差し上げればよろしいのでございますね」
もはや、俺の反抗的な態度に注意を入れるスタッフもいなくなっちまった。
「くそったれ、これが終わったらジ、エンドだ。」
もう少しの我慢だ。
おれは日本から持ってきた、いや、運ばされた古着を、来た連中に手渡していった。
俺のふてくされた、態度をみんなは苦々しく思っていたに違いない。
そのとき、順番を飛ばして一人の男の子が俺の前に連れてこられた。
なんだ、おい、てめえ
全裸だ。
俺は立ち上がって、その場を去ろうとした。
俺はヌードがためなんだ。
男のヌードを見るとじんましんが出るんだ。
女のヌードは問題ないけど。
がっしっと、肩をつかまれて逃げられないようにされた。
観念して、その子どもに手渡したさ。
スタッフがパンツを持ってきて、手渡したら、その場でパンツをはいた。
シャツとジーパンを渡したらその場ではいたよ。
サンダルもタオルも渡した。
最後に消毒液を渡したら、手渡した俺の手を離さないんだ。
「おい、離せよ、俺の手、離せっていってんだろうが」
こいつは、ホモか。
俺はその子どもの手を振り払ったさ。
「うれしいんだよ、ありがとうって言っているよ、目を見てご覧よ」
スタッフが俺に言った。
その子どもの目には涙がいっぱい溜まっていて今にもあふれんばかりだった。
俺の頭に雷が落ちたような気がした。
俺はその場にいる事ができずに、いきなり走りだした。
涙と鼻水が一緒に流れてきた。
(続きます)
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